仮想通貨による所得が譲渡所得ではなく雑所得になる理由を解説してみた

 最近、また仮想通貨に関する税制について話題になっていますね。

 特に注目すべきはこの記事です。

ascii.jp

 今回はこの記事で言っていることは誤りである、ということを根拠を示して解説していきたいと思います。

所得税法上における譲渡所得・雑所得とは?

所得区分の話(包括的所得概念)

f:id:Mizuki410:20180228194711p:plain

 所得税法上では、課税対象となる所得をその性質の違いによって、10種類に区分しています。①利子、②配当、③不動産、④事業、⑤給与、⑥退職、⑦山林、⑧譲渡、⑨一時、⑩雑所得の10種類です。

 ①利子所得から⑨一時所得まではそれらの特徴を踏まえた上で規定されているのですが、雑所得とはそのどれにも当てはまらない所得ということで、例外的な所得として定義されています。

 細かく規定しすぎるのはキリがなく、利便性を損なうため、どれにも当てはまらなかった場合の受け皿を雑所得という形で設定しているということです。この雑所得の規定があるため、日本の所得税法は「包括的所得概念」(⇔制限的所得概念)という所得概念を採用していると言われています。

 区分から外れる所得は"所得とみなさない"、"課税しない"わけではなく、あくまでも所得は全て課税の対象であるというものです。

譲渡所得とは?

 

f:id:Mizuki410:20180228195602p:plain

 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいいます。

 ここでいう資産については、所得税法上に規定がありません。上の記事(仮想通貨は譲渡所得ではないか)ではこの点に注目しています(後で解説します)。

資産の譲渡の例外

 しかし、資産の譲渡が全て譲渡所得になるのかというと決してそうではなくて、第二項において、

  • たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得
  • 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得⇒山林所得

 という例外規定を設けています。

 たな卸資産の譲渡云々というのはどういう意味かというと、例えば、お店の商品(飲食物、書籍、洋服等)を売った時にはいちいち譲渡所得としてカウントせずに、事業所得や雑所得になるというようなことです。

 また、性質が同じ資産を"その譲渡によって利益を得る目的で"、"反復継続して譲渡"している場合については、譲渡所得には該当しないということです。

譲渡所得の趣旨

 法律の条文というのはその趣旨(背景)が重要です。

 譲渡所得というのは基本的に営利性や継続性に乏しく、例えば固定資産である車や家、土地などを譲渡したときがこれに該当します。

 固定資産は一個人が頻繁に売り買いするものではなく、取得から売却までは年をまたぐことも珍しくありません(マイホームとか)。また、年をまたぐことで経済情勢や経年等による価値の変動が大きくなるという特徴も持っています。

 そのため、それらを譲渡したときの利益や損失は、一個人の資産状況や所得、税額に与える影響が大きいため、影響をその実質より小さくするために、特例が設けられていることが普通です。

 例えば、所得から50万円を引いた後1/2とする、損失は他の所得と通算できる(損益通算)というような措置があります。

さらに細かい説明規定も(基本通達)

f:id:Mizuki410:20180228201222p:plain

 預金、貸付金のように債権の目的が金銭であるものや、手形、小切手のように、通貨と同様の流動性のある資産の譲渡による所得も譲渡所得には含まれません。

雑所得とは?

f:id:Mizuki410:20180228200947p:plain

 雑所得とは、他の9種類の所得のどれにも当てはまらなかった場合に区分される受け皿としての所得区分です。

 公的年金個人年金、そして事業と呼ぶまでには至らない経済活動による所得(規模が小さい副業とか)などが雑所得の例として挙げられます。

 仮想通貨による所得は譲渡所得ではなく、雑所得である、という通達が国税庁より発表されたのは記憶に新しいと思います。

 

条文を解釈し、当てはめてみる

例の記事の中身を見る

ascii.jp

 さて、譲渡所得と雑所得について解説を終えたので早速記事の内容を確認してみたいと思います。

気になるポイントをつまんで見る

f:id:Mizuki410:20180228201758p:plain

 僕も当初はマイニングやマスターノード報酬で通貨が手に入ることも考慮して雑所得になるのではないか?という意見を持っていたので、ここについては特段異論はありません。

f:id:Mizuki410:20180228201808p:plain

 ここでは仮想通貨の取引が、"資産"の"譲渡"に該当するのか、という点に着目します、ということらしいです。

f:id:Mizuki410:20180228202319p:plain

f:id:Mizuki410:20180228202324p:plain

 仮想通貨は"資産"だし、その取引は"譲渡"である、という結論です。僕もそう思います。

f:id:Mizuki410:20180228202437p:plain

 仮想通貨の取引が「"資産"の"譲渡"である」という点だけで満足して譲渡所得と判断してしまいました。これは誤りです。

譲渡所得の定義に当てはめてみよう

f:id:Mizuki410:20180228202602p:plain

 譲渡所得の条文では、第2項の第2号で「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」は"譲渡所得ではない"ということを明示しています。

 よって、仮想通貨の取引によって生じた所得はこの規定から"譲渡所得ではない"ということができます。そのため、雑所得に該当します。

流動性のある資産であること

 もしかすると、ホルダーの中には「自分はNEMを購入してガチホしているから、営利を目的として云々というわけではない」というようなことを言う人がいるかもしれません。しかし、仮想通貨自体はガチホしたところで使われなきゃその価値がないわけですし、そもそもガチホしていたところでいつかは使うか売るのでしょうから結果的に利益は発生します。

 そして、仮想通貨は最終的に流動性を確保する必要があります。流動性リスクというワードが用いられることからもそのことが十分にわかると思います。

 それだけではなく、現状仮想通貨は投機目的の資産として頻繁にトレードされているので、仮想通貨の取引自体は"鋭利を目的として継続的に行われる資産の譲渡"であると客観的に判断されるでしょう。

国や国税側の都合ではない

 僕は前々から言っていますが、あくまで仮想通貨の取り扱いは突貫工事的に示したものであり、既存のフレームワークの中で解釈したものに過ぎません。

f:id:Mizuki410:20180228201834p:plain

 そういう恣意的なものではないことは少し考えればわかると思います。

いずれ既存の金融商品と同じ道を辿る

  仮想通貨を始めとしたトークンエコノミーを普及させるには既存の法律(税法)が一つの壁となり得ると思います。

 いきなりトークンエコノミーに適した形で改正することはできないので、まずは一旦これまでの金融商品と同じような取り扱いとし、イノベーションが実利用に適した形となるまでは株式やFXと並べて語られるでしょう。

 

終わりに

 久しぶりに仮想通貨の税解釈について少し長めの記事を書きました。

 税制度は"租税法律主義"といって、必ず法律上のの条文という形で規定されており、現実の事象を解釈するときには条文を無視すると正しい解釈とはなりません。

 まあ、こんなことは別にどうでもいいのですが、このようなニュースや記事を受けて是非仮想通貨に限らず、社会の仕組みについて興味を持つ人が多くなってくれることを願っています。