仮想通貨における担税力について考えてみました

 以前の記事で「仮想通貨による所得が譲渡所得にならない理由」について、法律の条文から解説しました。

selfgox.hatenablog.com

 譲渡所得と雑所得の違いは色々あるのですが、仮想通貨ホルダーが一番気になるのは"損益通算の可否"だと思います。

 そこで今回は所得のプラスマイナスを通算できる制度、損益通算を理解するための前段階として、担税力というものについて仮想通貨と絡めて解説します。

担税力とは?

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担税力 - Wikipedia

 担税力とは耳慣れない言葉ですが、簡単に言うと「税金を負担する能力」のことです。お金がないと物を買うことができないように、そもそもの所得がないと税金を支払うことはできません。

 では、所得からどのようにして担税力を測るのでしょうか?

 担税力の測り方には、①所得の大きさと②所得の発生原因の2種類が考えられます。

 

所得とは?

 "所得"税という税目があるように、所得とは担税力(税金を負担する能力)を表す最も大きな指標の一つです。

 一口に所得といっても、一個人を流れる経済的価値は3つの側面から捉えることができます。①収入、②資産(貯蓄)、③支出(消費)です。

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 これを表したのが上の図です。

 収入 - 支出 = 資産 という数式に置き換えることが可能なように、所得というのはこの3つの側面(要素)をどのように捉えるかという考え方が違うだけで、基本的には同じものです。GDP(国民総生産)の三面等価の原則と同じ原理です。

 収入があれば、資産があれば、支出があれば当然それだけの経済的価値を保有している(していた)ことを逆算的に求めることができます。

 例えば、サラリーマンが給与をもらえば、その給与自体は当然収入であるし、その収入の使い方(処分)は貯蓄や投資に回るか、何かを買う(支出する)ために使われるということが想像可能です。

 

担税力の測り方について

その①:所得の大きさ

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No.2260 所得税の税率|所得税|国税庁

 日本の所得税法では、所得が多いほど税率が上がっていく累進税率制度というものを導入しています。先ほどの垂直的公平の原理を制度として採用したものです。

 これは所得が多いほど基本的な生活費としての支出割合が下がるから、その余剰分の大きさの度合いに応じて"担税力"が高くなるという考え方です。

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 例えば、所得300万の人と所得1,000万の人では、収入の内の家賃や食費、水道光熱費が占める割合というのは必然的に異なるということです。

計算例

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 ※ここでは単純に300万、1,000万を課税所得としました。

 他のブログを見ていたらこの控除額を「免除額」であるという説明をしていた記事がありましたが、別に免除されているわけではないことにご注意ください。

その②:所得の発生原因(稼ぎ方など)

 さて、一口に所得といってもその発生原因には様々なものがあります。

 所得税法においては、その発生原因などによって所得を10種類に区分しています(不動産、事業、給与及び雑所得など)。

 所得の発生原因として考えられるのは主に3パターンです。給料や報酬などの労働の対価として受け取るもの(労働所得)、不動産の賃貸収入や金融資産等の譲渡収入(資産所得)、誰かから無償で受け取るもの(贈与や相続)です。

 ここでは贈与や相続を除き、大きく①労働所得と②資産所得の違いに注目して考えてみたいと思います。

労働所得と資本所得の担税力

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 図の配置が逆となっていますが、そのまま進めます笑

 まず、労働所得ですが、こちらはある種自分の身体や能力、時間などを資本として得られるものとなっています。そのため、金銭としての元手がなかったとしても所得を得ることができるというのが特徴です。

 一方、資産所得においては、不動産を持っていること、株式や仮想通貨を保有するための元手(資本)をある程度保有していないと得ることができません。例えば、多くの仮想通貨ホルダーは会社勤めなどによって得た所得の"処分"の方法として、仮想通貨を購入していることが多いと思われます。

 労働所得と資本所得の大きな違いは、「元手(資本)があるかどうか」です。

 労働によって得る1万円と、資産を動かすことによって得る1万円では同じ1万円ではあっても、その価値は異なります。これは汗水垂らして得る金は大事であるとかそういう精神論じみた話ではありません。

 例えば、労働所得としての1万円と、資産所得としての1万円に同じ50%の税率をかけるとどうなるでしょうか。この場合、手元に残るのはそれぞれ5,000円と15,000円で、後者の方が経済的に余裕があるということが理解できるかと思います。

 よく考えると当然の話なのですが、結果的に「労働所得よりも資産所得の方が担税力が高い」ということができそうです。

 

仮想通貨による所得の担税力は?

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 さて、ここまでで担税力について、その意味(軽く)と測り方について解説してきました。

 結果から言うと、仮想通貨による所得は「資産性の所得であるため、担税力が高い」ということができると思います。

 この"担税力"という言葉の定義を字面通りに受け取ってしまうと、「利益が出てもすぐ価値が変動するから担税力が低い」とか、「億り人になったけどコインチェックから出金できないから担税力なんてあるわけがない」という意見が出てくるのですが、そういうことではありません。

 担税力とは、「その年中に利益・損失が実現(確定)したその利益・損失の額」から測るものであって、それを日本円で払えるか(納税できるか)というものではないのです。もっと細かく解説したいと思います。

反論①:「去年利益が出たけど今年は暴落したから担税力は低い!」

 所得税は、1月1日から12月31日までで得た所得によって税額を計算する暦年課税という仕組みを採用しています。

 要するに年中に利益が出た分については、その内の一部について税額が発生するため、ある種"使ってはならないお金"(あまりこういう言い方は好きではありませんが)になるわけです。例えば、借金の返済原資をギャンブルで増やそうと思って結局溶かしてしまった、ということをやってしまっているということです。

 この点については、株式やFXでは損失の繰越制度を導入することによってこういう事態の緩和を図っていますが、仮想通貨についてはまだそういう制度ができていないのでこれは仕方がないという他ありません。

 

反論②:「利益が出たけどアルトコインだから円に換えられなくて払えない!」

 これは通貨自体の流動性に難があるのです。流動性リスクと言ったりします。

www.ifinance.ne.jp

 現在、仮想通貨は1,600以上の種類がありますが、その中には出来高があまりにも少なく、売ろうと思っても満足に売ることができないというものがあると思います。これは税制度が云々という話ではなくて、そのトークン自体の流通システムがうまく機能していないことの表れです。

 その点において、ビットコインや上位アルトは日本円の通貨ペアがあったりするので、多少は安全かなという印象です。

 

反論③:「コインチェックに資金ロックされてるから税金分の資金が容易できない!」

 これもズレていて、コインチェックがロックしているのが悪いです(仕方ないですが)。

 納税する原資は一応あるけどそれを取り出したり、手続きすることができないという点では税金を払う側の非は少ないと思うので、何か国税庁から猶予措置などのアナウンスがあってもいいのかなという気がしますが、東北大震災と異なり、そこまで重要視はしていないみたいです。

 今回のコインチェックの件まで自己責任だとは僕は思いませんが、こういう予期しないリスクもたまにあるので、ウォレットに入れるなど、分散管理は大事だと思います。

 裏を返せば仮想通貨は自分で管理することが現状結構難しいというのが問題点なので、自己管理をセキュアに行えるアプリケーションツールが出てくれば普及するのは時間の問題だろうと考えています。

終わりに

 今回は仮想通貨と担税力について考えてみました。

 仮想通貨と税金というテーマはこの先も重要だと思うので、次回以降は損益通算や繰越損失の制度、流動性リスクなどについて取り上げていければなと考えています。