仮想通貨と損益通算制度について解説してみました

 これまで仮想通貨の税法上の取扱いについて、いろいろと取り扱ってきましたが、仮想通貨ホルダーが一番気になっているのは「損益通算の可否」だと思います。

 そこで今回は損益通算制度の趣旨(考え方)と「仮想通貨による(雑所得の)損失はなぜ損益通算ができないのか」ということについて解説したいと思います。

 ※当記事を読む前に以下の2つの記事をあらかじめ読んでおくと理解が深まると思います。

selfgox.hatenablog.com

selfgox.hatenablog.com

損益通算制度とは

No.2250 損益通算|所得税|国税庁

www.marunage.co.jp

 損益通算とは、各種所得の金額の計算上生じた損失について、一定の順序に従って、総所得金額等を計算する際に他の所得の金額から控除することをいいます。(引用:タックスアンサー)

 簡単に言うと、10種類の所得区分の中で損失が出た所得がある場合には、その損失は他の利益が出ている所得から差し引くことができます、という制度のことです。

 図で解説するとこうなります。

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 事業・給与・雑所得で利益が出ていますが、不動産・譲渡所得で損失が出ているので、利益と損失を通算(足し引き)しつつ、トータルの所得を計算しています。

損益通算の対象となる所得

  損失が発生した場合はどの所得でも損失を通算することができるかというとそうではありません。

 損失を他の所得から差し引くことができる所得は以下の4つに限られています。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 山林所得
  • 譲渡所得

 逆に言えば、これ以外の利子・配当・給与・退職・一時・雑所得の計算上、損失が発生したとしてもその損失はなかったことになってしまうということです。

損益通算制度の趣旨(考え方)と雑所得

所得区分と損益通算と担税力の減少

 所得区分とは、個人の所得をその発生の性質の違いから10種類に分けること(またはその結果)を指します。

 ①利子②配当③不動産事業⑤給与⑥退職⑦山林譲渡⑨一時⑩雑所得の10種類です。(損失を差し引ける所得を青色で表示しています)

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 以前、この画像を使って所得区分を説明しました。この考え方を包括的所得概念と言いますが、①利子から⑨一時所得に当てはまらない所得を、バスケットカテゴリーとしての雑所得として定義する考え方です。

 この集合=個人の所得となるのですが、時には損失が出ている所得が発生することもあります。

 例えば、事業をしていれば経費が多くかかって赤字になることもあるでしょうし、車を買った時の価格より安く手放してしまったということもあると思います。

 そのような場合にはその赤字(損失)が出た分だけ税金を負担する能力(担税力)が減少します。利益が出ている側面だけを見て税金をかけてしまうと、実際にはお金がないのに納税することになったりする可能性がありますよね。

 そこで他の所得と損失を通算することによって、適正な所得の金額に対し税金をかける(課税する)ことができる、という考え方が損益通算制度の趣旨となっています。

 この考え方を厳密に適用するのであれば、(事業や不動産などと)所得を限定することなく、全ての所得の利益・損失を通算できるのが望ましいのですが、それでは不都合が生じるので、損失を通算できる所得は4種類に限られています。

 雑所得はなぜ損益通算できないのか

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 事業・不動産・山林・譲渡所得は損益通算が可能な4種類の所得です。一方、他の6種類の所得については損益通算が出来ません。

 理由としては、①そもそも損失が発生する可能性が低い、②所得の処分としての性格を持っていることが主に挙げられます。

①そもそも損失が発生する可能性が低い

 これは雑所得以外の利子・配当・給与・退職・一時所得について当てはまります。

 ここでは詳しい解説を控えますが、そもそも損益通算を認めたところで適用可能性が低いのであれば、制度創設の実益が薄い(意味がない)ため、損益通算が認められていません。

②所得の処分としての性格を持っている(雑所得)

 処分というとゴミを捨てるとか、CDや本を売るというイメージがありますよね。ここでいう処分とは、堅苦しい言葉での「使い道」とか「使い方」という意味になります。

 "所得の処分としての性格を持っている"という言葉を要約すると、「稼いだお金の使い道という性質がある」という感じでしょうか。ちょっと正確に日本語にできなくてすみませんm(_ _)m

 雑所得とは、他の9種類のどの所得にも当てはまらない性質の所得です。

 どの所得にも当てはまらないということは、事業や給与等と比べ、所得の発生原因としては(経常的でない)偶発的なものであるということです。例えば、副業で少し記事を書いた報酬とか、趣味でたまたま少額のお金を稼いだ場合などそのような些細な利益は雑所得となりえます。

 要するに利益が出た場合は何でも"所得"となり得るのですが、本気で稼ごうとしていない趣味などに関係する支出を全て雑所得の経費として認め、結果として損失が出た場合、その損失を通算してしまうと「生活費が経費になる」ということにもなりかねません。

 また、諸々の節税スキーム(方法)の手段として使われてしまい、意図的に所得税額を減らされてしまう可能性があるので、雑所得の損失については損益通算が認められていないのです。

 もちろん、雑所得とは他のどの所得にも当てはまらない所得のことなので、損益通算が認められるような性質の所得はあるかもしれませんが、それをいちいち細分化するのは費用対効果(コストパフォーマンス)が薄いため、制度化されていないという現状があるのです。

仮想通貨による損失が損益通算できない理由

 ここまで損益通算制度の概要について解説してきました。

 仮想通貨による所得は雑所得に区分されることはもはや周知の事実ですが、仮想通貨トレード等で利益が発生した場合には課税されるのに対し、その損失は一切税額に反映されることはありません。

 なぜかというと、現行の税法の解釈では「仮想通貨による所得は決して一個人のメインとなり得るような所得ではなく、処分としての性格が強いために損益通算を認める必要がない」ということになっているのです。

 要するに「趣味でお金を運用していて損をしたから税額を下げろというのは、都合の良い主張でしかない」ということです。まあ、利益が出たら課税されますが、それは所得税法上のロジックなのである意味仕方のないことです。そこも含めて"投資は自己責任"なのではないでしょうか。

他の金融商品との比較

 株式やFXなどの他の金融商品も利益が出た場合には課税され、損失が出たときはなかったものとみなされます(損益通算できない)。

 そのため、この先も仮想通貨による損失が損益通算の対象となることはまずないでしょう。

 ただ、株式やFXと同じように損失が出たときには、それを翌年以後3年間繰り越せるようになるとは思います。

個人的な意見

 よくツイッターで「仮想通貨の所得は明らかに譲渡所得なのに雑所得なのは損益通算させたくないからだ」という意見を見ます。

 しかし、国や国税サイドにとって都合の良い解釈が勝手に組み立てられているわけではなく、これまでに発生した様々な事例の判例を元にして法律は解釈されています。

 こういう意見が出るのも国が悪いといえば悪いのですが、意見する側も結論ありきで物事を語っているような気がします。それは決して懸命なことではないので、もう少し税法についてわかりやすく広報するようなメディアがあればなと思いますし、いずれ作りたいと考えています。

 何にせよ、仮想通貨が仮に決済やその他のシステムとして運用されるのであれば、現行の税法では明らかにやりにくいですし、簡単に損益計算ができるアプリケーションや、抜本的な税制改革が必要だと思っています。だいぶハードルが高いですけどね。

 

終わりに

 今回は仮想通貨と損益通算制度について解説してみました。

 これまで書いた記事と併せて見ていただければだいぶ仮想通貨と税法の関係については理解できるのではないでしょうか。是非記事を見て皆さんなりの考え方を組み立ててみてください!